1.教材解釈
夕なぎのひかり濁れる坂下にまだリベットを打つ音やまず 木俣 修
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ひかり濁れるとはいったいどういうことなのか。夕なぎということから、時間は夕方になり夕焼けがでているような時であろう。夕焼けの美しさを濁ると表現した作者にはどういうひかりが見えたのであろうか。ほこりが漂っているようなところに光がさしているのだろうか、それとも、暗くなっているということなのだろうか。
リベットを打つということから、そのまわりは、なにかの工場ということが考えられる。そうすると、この濁れるということは、ほこりということになる。しかし、ここで疑問がでてくる。それは、作者にはなぜリベットを打つ音とわかったのだろうか、工場にはいろいろな音がしているはずである。とくにほこりがでているような工場となると大きな工場ではないかと思われる。作者がひかり濁れるというように感じるためには、そうとうなほこりが必要であるからだそうした疑問を解決するためには、ほこりという考えを改める必要がある。
暗くなっているということで考えていくとどうであろう、濁るという言葉には混じるという意味があることから、陰とひかりが混ざっているととるのはどうであろうか。即ちここでは坂の陰ということになるであろう。ではリベットの音はどうであろうか。それは、小さな工場と考えると整合性がでてくる。2〜3人の小さな工場だとしたら、あまり多くの種類の製品をつくらないのだから、いつもリベットを打つような作業をしていると考えても不自然ではない。リベットを打つ音と断定しているのも、その音しか聞こえてこないような工場であるからなのだ。
そうした、小さな工場での手作業で出ているリベットの音だからこそ、作者にものがなしさを感じさせたのだろう。「まだ〜やまず」にその気持ちがよく表れている。
2.授業のねらい
リベットを打つ音ということがわかるのであるから、リベットをうつような作業が中心の小さな工場であるということを読み取らせる。
まだ〜やまずの内容を理解させる。
3.主な発問
○この工場は大きいのか、小さいのか。
○作者はどこにいるか。
○まだ〜やまずとはどういう気持ちからいっているか。
4.授業記録
T1 リベットを打つ場所とはどういうところ。
C1 はしっこ
C2 建物
T2 普通工場なんかでしょう。じゃけい、ここは限定して考えていかないと仕方ないと思うんで、工場だと考えましょう。工場だと考えた場合。工場の規模、大きさ。
C3 大きい。
T3 大きく分けてそう。リベットを打つような工場は大工場なのか、それとも、
C4 中ぐらい。
T4 まあ中間がはいってもいいですが、こないだ行ったでしょう。あの、スケッチ大会の時にねえ、竹工場。ああいうところ、まあ2〜3人が働くような小さな工場なのかそれか、大きい工場といえばこのへんで言やあ。
T5 吉和工業なんかか、あそこの山賊のこっち側にあるじゃあなあ、何ちゅうたかいな。C6
丸井産業
T6 吉和工業とか、丸井産業とか、あれより大きいような工場。これねえ、どおっちのイメージがあるか、自分で考えてみて。このぶん読んだ時にリベットの音が聞こえてくる時、大きい工場から聞こえてくるのか、それとも、この間の竹工場のような小さい工場から聞こえてくるのかというの手を挙げてみて。じゃあ。
大きい工場 8
小さい工場 多
それじゃあ、なぜ大きい工場と思ったのか、小さい工場と思ったのか証拠を見つけてみて、この文章から、自分ではじゃけい大きい工場でないといけんのんよ、とか小さい工場でないといけんのんよとかいう理由をみつけてみて。
CH ぼくは小さい工場の方なんだけど、大きい工場だったら、いっぱい他の物とかもつくるので、リベットの音が聞こえないと思うんだけど、小さい工場だったら、聞こえると思うので小さい向上だと思います。
Cy 大きい工場とかだったら、よく、夜になってもやっているので、リベットを打つ音がやまなくても、おかしくないと思うけど、小さい工場だったら、昼だけに仕事があるので、まだりベットを打つ音やまずとあると思います。
T7 そういやあ、Chjさんとこなんかは吉和工業だったな。夜中もずうっとやっとるんかいのお。機械動しとるなあ。
Ck ぼくは、大きい工場と思うんだけど、ひかり濁れるちゅうのは、大きい工場ででかい音がして、震えるような感じで濁るというようになると思います。
T8 ほこりみたいな、そういう雰囲気?
Ck はい。
T9 音がガ−という中にひかりが濁ってくるような。なるほど、なるほど、なやんでくるなあ。
Cn ぼくは、大きい工場の方なんだけど、大きい工場だと、すごい大きい機械を使うので、音がすごい響くから、
T10 響くからどうなの?
Cn なんとなく。
T11 まだやまんのんかいのおちゅう感じ?
Cn うん。
Cm えっと、ぼくは、小さい工場だと思うんだけど、大きい工場だったら、いつもいつもリベットとか打つ音がやまないんだけど、小さい工場だと夕なぎのひかりが濁れるぐらい遅くまでやっている時はないので、だからめずらしいという意味で、まだリベットを打つ音やまずと書いてあると思います。
Cs 私は大きい工場だと思うんだけど、ひかりが濁るといったら、小さい工場だったらそんなに濁らないような感じがして、大きい工場だとしたら、本とにすごい濁っているような感じがして、
T12 空気のよごれみたいなことか。(Csうなずく)
Ct 私は、ひかり濁れるというのは、ほこりとかで濁ったように見えるんじゃなくてあたりが暗くなってひかりは透明だから、その光が薄暗くなって、その苦楽なったのを濁れると書いたんだと思うんだけど、私は小さい工場だと思うんだけど、Cm君と似ていて、大きい工場とかは、夜にやるのは、毎日のようにあると思うんだけど、小さい工場だったら、夜にやるようなところはあまりないと思うので、小さい工場だと思います。
Ch ぼくも、最初大きい工場だと思っとたんだけど、Ctさんや、Cm君の意見を聞いて、小さい工場に変わりました。
Cko えっとぼくは、小さい工場から、大きい工場に変わったんだけど、ひかり濁れるというのは、だんだん暗くなって、そういうのを濁れると表現してから、夜になりそうなのに、工場が動いているというのを表しているから、多分大きい工場だと思います
C うん?
T13 え?前半の理由は小さい工場の理由のような感じがして、結論だけ大きい工場のような気がしたんじゃけど、どうかいな。Cko君、今自分が言いたいことが言えた?Cko君こういうことが言いたいんじゃないかなというのが、分かる人いる?Csさんがいったのに似ている?濁れるというのは、ほこりと思うわけ思わんわけ?
Cko 思わない。
T14 思わない。じゃあなんで大工場なん?
Cko ひかり濁れるというのは、夕方から夜になる時に、明るいのと暗いのがごちゃまぜになって、ふつうぐらいの暗さになるんですよ、
T15 そこまでの理由はなんとなく小さい工場の理由のような感じがするんよ、それで、なんで大工場なのかというのが自分の中ではっきりしていない?イメージは変わったわけだな、理由はまだはっきりしていない。
Chm えっと、私は小さい工場だと思うんだけど、CH君が言ったのと同じで、小さい工場だったら、2〜3人とかだと思うので、他の機械でもあんまり使っていないのでリベットを打つ音が大きいような気がするので、だから、小さい工場だと思います。
T16 あの、例えばね、(オルガンをたたく)こうやって音がしてきたとするみんなは、見てなよ。たたいているところを見ているわけじゃない。それで、あっ今鉄板をたたいている。リベットをたたいているというのが、言える?
Cn 先生質問があるんだけど、作者の年齢は?
Cm えっと、この人は朝でも、昼でもええけど、リベットを打つところを一回見ていて夕方かえっても、まだ見た時と同じ音がしているということだと思います。
T17 そのことを大工場とか小工場とかにつなげて考えていくとどういうことになる?じゃあね、吉和工業から、ガ−ンガ−ンガ−ントいう音がしてくる。あれはリベットをたたく音だといえる?はっきり言い切れる?
Cn 先生、年か年じゃないか,
T18 それはちょっと分からんけど、若くないとしたらどうなるの?
Cn それだと、若いころ小工場で働いていたと思うけい、
C じゃあ若かったらどうなるん。
Cn 知らん。
T19 じゃあ、今の話をもとにしてどっちになるかということで、手を挙げてみて。
大工場 5人
小工場 多
これはねえ、先生は、CH君が一番最初に言ってくれたことがそのままだと思うんだけどね、リベットを打つとはっきり分かるというのが小さい工場で、単純作業をしているんだと思う、いろいろんな物を作っている工場だとね、これは言い切れないような気がするんよ。おんなじようなもので、リベットをうつようなことでできるようなものばかり作っているんじゃないかと思うんよ。例えばちりとりなんかをとんとんとんとん作っとるような感じで、音が聞こえてくれば、またあのリベットを打つ音だなとわかる、何の音かということがすぐ分かるような感じがするわけよ、大工場というのは必ずしも、間違いとは言えないけれども、大工場だったらさ、機械の音がやまないとかになるような感じがするけどね、リベットと断定できるというのはこっちのほうが可能性としてね、高いと思う。それじゃあね、いちようこれで考えて次にいくよ、2〜3人の工場だとして考えてよ。
さっきの問題ともからんでくるんですが、ひかり濁れるとはどういう状態をあらわしているんでしょうか。
Ck 夜になるという光だったら漢字で書くと思うけど、ひかりでも、他のものをひかりにかえているような気がするので、ひかりはぼくは、音がびよよよんと
T20 ひかりは、光だけじゃない、雰囲気なんかも含むということ。
Ct えっと私は、薄暗い夕方ぐらいの時と思うんだけど、夕凪というのは、海から吹いていた風が、陸からふくようになるまでの間の風のない波の静かな様子とあるので、その夕凪おというのは昼と夜の間だから、その夜というのは真っ暗だけど、夕方は、薄暗い感じがして、だから、ひかり濁れるというように、夕方のことを書いたんだと思います。
Cy えっとCtさんのに似ていて、夕方になったら、あたってくるひかりがそんなになくなってくるので、少しあたってくる光と、全然あたっていないところが、ごっちゃになって濁れると書いたんだと思います。
T21 じゃあ、雰囲気という意見と薄暗いという意見2通りでいいですか。あともうないCn ひかりって、明るいんじゃないん。
Cm 明るいもんが、明るくなくなったということじゃないん。
Cy 明るいのと暗いのがまざった。
T22 あっ明るさと暗さがまじるけい濁れるなの。
Cko 今まで光っていたのが、雲がでてきて陰になったような感じ。だから、ああいう感じの薄暗いような。
T23 もう一回ゆっくり読んでみて。
T24 じゃあ夕凪という言葉があるけい、薄暗いというのはあるんだけど、雰囲気もひょっとしたら含んでいるという気がCk君が言ってくれたので、先生思ってきました。それじゃね、この坂したということばがあるでしょう。坂下だけが、こういう風に暗いのか、それとも、作者のいる場所もふくめて、全体的にくらいのかということを考えてみてください。自分のイメージを作っていってくださいよ、映画をつくるような感じで。
全体 1
坂下 多
それはどうして
Cm えっと、それはひかり濁れる坂下にと書いてあるから、坂下だというような感じで坂下をさしているような感じがするので、だから、坂したです。
Cy えっと、濁れるのれるというのは、自然にそうなるとか書いてあったので、坂下にと書いてあるから、坂下は濁ってくるんですよ、だから、上の方は、明るいけど、下の方は、その坂の陰になって暗いんですよ。
Cn その作者は、目がいいか、目がわるいか。
T25 作者はどうかいなこういう状態を見ているわけでしょう。
Cm 見ていない。リベットを打つ音やまずと書いてあるから、音しか聞いていないと言う感じがするんですよ。
T26 ここよ、この場面よ、作業をこんこんやっとるところじゃあなくて、ひかりが濁っているところよ。
Cm あっそうか。
T27 じゃあそれを解決するために、作者とその音が聞こえてくるところの一の関係を考えてみるか。昨日みんなに書いてもらったのを分けてみると、次の4つになりました。
A 作者 B
作者
音
C 作者 D
音 作者
音は見えないところか
聞こえてくる
それじゃあね、これはおかしいんじゃないのかなというのから、考えたみて、隣と相談してみて。
相談
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おかしいと思うのに手をあげてみて。
A 0 B3 C3 D6
その理由を言ってみて
Cny ぼくは、Dがおかしいと思うんだけど、波の音で、リベットの音がほとんど聞こえ
ないと思うので、おかしいと思います。
Cn えっと、夕凪というのは、風がないので、波は風に押されてできるもんだから、あまり音はしないと思います。
Co けど、ボートとかのっていると自然に波がおこるような気がする。
Cko わざわざ小さい工場なのに、海の近くにおかなくてもいいと思います。
CH 風がないので、波が絶対おこらないということはないので、波の音で聞こえないと思います。
Cy 音がしてくるところよりも、海の方が近いのだから波の音が大きいと思います。
Cm そこの舟の位置が工場に近いので、舟が入りにくいのではないかなあと思います。T28 それはないと思ってください。
C だけど、あんまり夕方おそくだったら、ボートにのるのはあぶないんじゃないん。C
釣りの帰り。
T29 坂下という表現から、なにか見えてこない。
C 海のそこらへんは、坂とはいわない
T30 どうかいな、ボートから見て坂下という?
Cm 坂の上が見えたらいうかもしれませんね。
T31 ボートにのっとてね、そこに工場がある、その横に坂がある。そういうところを、坂下というかどうかということ。 あんまり言わないよね、陸から聞こえてくるとか岸から聞こえてくるとかじゃない。Dというのは一応なしということで、進めていくよ。じゃあCとDで、おかしいという意見がでているんだけど、その理由はどうして
Chj Bがおかしいと思うんだけど、音のすぐ下だったら、坂下なんかいわないと思います。
CH ぼくは、Bがおかしいと思うんだけど、音のすぐ近くにいると、回りが濁っているようには見えないと思います。
T32 そこにおったら、そこのへんが濁っているということがよくわからない そこを見るからそこがそういうふうになっている。このへんはとてもむつかしいところなんだけど、どちらの方がよりこの短歌を理解していくのにいいかという感じでせまっていくわけです。
Cty ぼくはCがおかしいと思うんだけど、工場が見えないで音が聞こえてくるというのは、その音がリベットだとは正確にはわからないとおもうので、違うと思います。
Cm 見えないと言っても遠くて見えないというんじゃなくて、家の陰かなにかにかくれたりしていて、見えないということもあると思うんだけど。
T33 でも、その場合でも坂の下の方から聞こえてはくるんだね。それじゃあね時間もきているから、悪いけど先にすすめていくよ、では、おかしいという意見がないAということで、イメージしていくことにしましょう。先生も、Aのイメージをもっています。坂下にというためには、坂の上からみているというのが自然な感じがします。位置関係はこういうことにして次に問題にしてもらいたいのは、これ。「まだリベットを打つ音やまず」というのはどういう気持ちなんじゃろう。
C まだかいの−
T34 はやくやまないかのお、いやじゃのお。という考え、まず一つそれがあるの。他にまだやまずというのがある。
Cy 私は工場でおそくまで働いているから、ながくまでいるということだと思います。T35 よう働いとるなあということ。
Ck ぼくは、小さいころもそのリベットの音をよく聞いていて、久しぶりに帰ってきたら、まだ音がしていたので、まだやまずだと思います。
T36 あ−、それはさあ、前半部とどうつながりがあるわけ。
Ck それは分かりません。
T37 この2つは前半部とつながるでしょう。こんなにおそいのにうるさいなあ、とか、こんなに暗くなっているのにたいへんだなあというのもつながるでしょう。でも、今Ck君が言ってくれたのは前半部とつながらないでしょう。そういう解釈もあっていいとおもうけど、この場合でははずしてください。この2つ以外ありますか。じゃあちょっと手を挙げてみて。 (全員たいへんだなあに手を挙げる)
T38 全員がそう思ったのですね、それでは、その気持ちを込めて一回読んでおわりにしましょう。